指導的立場にある管理職の大きな悩みの1つ、「部下を指導するとき」。部下を指導する際に声を荒げてしまう場面もあるかもしれません。
しかし、それだけでは決して部下は育ちません。それどころか「パワハラ」なんて言われてしまうことも!?
そんなときに覚えておきたいのが「カウンセリングマインド」と呼ばれるカウンセリングの考え方です。
カウンセリングというと仰々しく病院の精神科のお医者さんや心理士さんがやるようなイメージに聞こえるかもしれませんが、現に保育や学校教育の現場では、先生たちが普通に使っている手法・考え方なのです。
カウンセリングは奥深く、追及しようとすると「臨床心理士」という資格があるくらいに、難しい領域に入っていきます。ですが、日常の業務で使えるような知識・技能は覚えておいて損はありません。
今回はこの「カウンセリングマインド」を理解して、「部下の自らやろうとする意識」を高めるサポート方法を身に着けてみませんか?
結論としては以下の通りです。
- カウンセリングマインドとは、相談者の気持ちに寄り添って、「受容」「共感」「自己一致」の態度で話を聞くカウンセリングの基本的な姿勢のこと。
- 「受容」や「共感」するためには「傾聴」したり、「うなづき」「あいづち」などを入れて、「それはつらかったね」などの相手の気持ちを代弁したりなどをして、相手の心に寄り添う姿勢を大切にすることが必要。
- その上で「ブリーフカウンセリング」という手法を取り入れれば、より効果的に部下の自己教育能力を高めることにつながる。
以下は、「諸富 祥彦」(もろとみよしひこ)さんという方の本で、日本にカウンセリング(特に教育界に)を普及させた方です。カウンセラーとして職場に赴任した想定で、カウンセラーさん向けに書かれた本ですが、使えるカウンセリングの知識を網羅したよい本ですので、興味ある方は購入してみてください。
カウンセリングマインドとは

カウンセリングの歴史
カウンセリングマインドについて書く前に、カウンセリングについて説明をしたほうが分かりやすいので、説明します。
カウンセリングの起源は、20世紀初頭のアメリカで、企業に就職する高校生への職業指導を行ったことがカウンセリングの始まりという説があります。
その後、第二次大戦から帰還した兵士の精神疾患を治療・緩和する目的で心理カウンセリングが行われ、兵士の社会復帰に貢献したという流れです。
その流れの中で主流となっていったのが「来談者(クライアント)中心療法」と呼ばれるロジャースの考え方でした。「人間は自分で成長する力を自然にもっているので、それを阻害しないように見守っていく必要がある」というのがその根底にある考え方です。
その「来談者(クライアント)中心療法」が日本に入ってくる際に、ロジャースの考え方を表す言葉として「カウンセリング・マインド」という和製英語が作られました。
カウンセリング・マインドとはロジャースの「傾聴」という態度や、「自己一致」「無条件の肯定的関心」「共感的理解」などを端的に表す言葉として広く、特に教育界に浸透していったのです。
カウンセリングマインドの定義
カウンセリングマインドは日本で作られた和製英語ですが、この意味を端的に表すと以下の通りになります。
コミュニケーションにおいて、相手の立場に立って理解しようとする態度のことをいいます。この態度は、相手の考えや価値観を尊重し、受け止めようとする意識から成り立っています。
Cotree「カウンセリングマインドとは?意味や保育、教育現場での事例や活かし方」より引用。
つまり、相手の言っていること、感じていることに「傾聴」して「共感的態度」で聞きながら、相手の価値観・気持ちを尊重して受け止めようとする心の在り方を示したものです。
これができることによって、相手の自己決定権を尊重できるようになり、部下が自分で成長する力を「サポート」できる上司になることができます。
カウンセリングマインドの効果
カウンセリングマインドを身に着けることで、次のような効果が期待できます。
- 相手とのリラックスした雰囲気や空気感を作ることができる。
- 相手の自己肯定感を高めることができる。
- 相手の自主性と自己解決能力を高めることができる。
- 相手との信頼関係構築がスムーズになる。
カウンセリングマインドは、相手の気持ちに寄り添いながら、相手の自己決定能力、自己解決力を最大限発揮させられるようサポートする方法です。
これによって、相手は他人からの押し付けではなく自分で決めたという自信にもつながり、自己肯定感が高まりつつ、「しっかりと親身になって聞いてくれた」という感情をもつので、上司に対しても好感をもつようになります。
カウンセリングマインドの注意点
良いことづくめのように聞こえるこの手法ですが、注意点があります。
- 犯罪行為などの「相手が幸せにならないような行動・主張」を受容・容認してはいけない。
- “相性の悪さ”はどうしても出てしまう場合がある。「男性の上司には話しにくい」や「女性には打ち明けにくい」など。
- 信頼関係が構築されていないと相手も心を開放してくれず、相談にならない。
- 相手の言っていることを理解できないまま相手に話し続けさせると、不信感につながる場合があるので、相手の発言や気持ちが理解できない場合はしっかりと聞き直す。
例えば、「万引きをしてしまう」という犯罪行為に対して「そうか、万引きしたいんだね」と行為そのものを肯定してしまうと、その行動を助長しかねません。
「万引きをしてしまう」という裏に隠れた気持ちは肯定しつつも、行為そのものにはNOを言わなくてはいけません。
また、信頼関係がない状態で相談を続けようとしても、相手は自分の心を開いてくれず、よい相談になりません。まずは信頼関係を構築することが大切です。
カウンセリングマインドの実践方法

①関係・信頼づくり
相手との信頼関係なくしては、よい相談にはなりえません。日ごろからその人の仕事ぶりだったりを見て正しい評価やフィードバックを与えたり、すべての部下に公平に接するなどの態度を取ることを気を付けましょう。
表面的な仕事のミスのみで叱ったり、公平性に欠くような態度を取っていては、相手との信頼関係は構築できません。
まずはあなた自身が信頼に値するような人物であるよう努力を怠らない姿勢が大切です。
②受容
相談者に対して「あなたの考えは間違っている」「ここはこうすべきだ」と否定的な言葉を投げかけるとどうなるでしょうか。きっと「この人は自分の気持ちをわかってくれない」となってしまいますよね?
つまり、相手の気持ちに寄り添って、どう考えているのか、何を伝えたいのかについてしっかりと耳を傾ける必要があります。そのためには以下のスキルを覚えておきましょう。
- 傾聴・・・・相手の感情をくみ取って、文字通りしっかりと耳を傾けて聞くこと。
- うなづき・・相手の話に対して「聞いているよ」というのを示すため「うん、うん」などのうなづきを入れる。
- あいづち・・相手の話に対して「はい」「なるほど」「それで?」「たしかに」などの言葉をはさむ。
- リフレイン・相手の話の一部を繰り返してあげる。「〇〇に腹が立って」→「ムカついたんだね」など。
- 要約・・・・相手の話をまとめてあげる。「〇〇に腹が立ってしまったってことかな?」など。
- 質問・・・・相手の話に対して「どうしてそう感じたの?」や「そのとき何をすればいいと思う?」など。
これらのスキルを使うことで、相手が「気持ちを聞いてくれた」という感覚をもつことができるようになります。
これらの「受容してくれた」という感覚を相手にもってもらうことがカウンセリングマインドの重要な目的の一つです。
また、もし相談者と話すときには、座席の位置にも注意しましょう。相手と対面して座るのは、相手と敵対関係にある配置になってしまいます。したがって、できるだけ相手と90度の位置になるように座る方がよいです。
③共感
人は誰かに共感してもらうことで、安心感を得ることができます。「それはつらかったね」や「そう考えていたなんて驚いたよ、すごいね」「私に話してくれてありがとう」などの共感的言葉がけを心がけましょう。
ついつい慣れない内は相手が事実とは異なる解釈していたり、誤った認識でいるときに「それは違うよ」と訂正してしまいたくなるものです。
しかし、そうではなくまずはその解釈になった背景やそういった認識にいたった理由などにフォーカスしていくようにします。共感とは相手の気持ちになったように、相手の内側からその相手を理解しようとすることです。
④自己一致
自分自身を否定せず、偽ったりせず、ありのままを受け入れている状態を表します。
少し難しいのですが、これは相談を受けるあなた自身もそういった状態である必要がありますし、相談者もそういった状態に導いていく必要があることを示しています。
人間は「理想の自分」と「現実の自分」が存在していて、そこにギャップが大きいと何らかの不適応を起こす存在です。
もちろん、理想の自分と現実の自分が完璧に一致することはありませんが、それに近づけていくことが理想です。相談をしている人が気づいていない部分にまで踏み込むには、あなた自身が相談者の不一致の部分を認識しておくことが大切です。
明日から使えるカウンセリング技法3選

カウンセリングマインドについて理解できたと思いますが、カウンセリングマインドを土台として、これを効果的に生かすための「ブリーフカウンセリング(短期間で効果があるカウンセリング)」の技法について3点お伝えしておきます。非常に簡単にできる方法なので、覚えておいて損はありません。
これらの手法を使う中で、カウンセリングマインドの「受容」や「共感」を入れ込んでいくことで、効果的に部下の自己教育能力を高めることができるでしょう。
ソリューション・フォーカスト・アプローチ
ソリューション・フォーカスト・アプローチ(SFA)とは、何か問題が起こったときに原因を分析するのではなく、うまくいっているところに目をつけて問題の解決に向かう手法です。
基本的には、「上手くいっていることは継続し、一度でも上手くいったことはもう一度やってみて、もし上手くいかなかったら違う手を考える」というのがこのアプローチの方法になります。
問題の原因にフォーカスしてしまうと「なぜできないんだ?」や「なぜやらないんだ?」という尋問形式の問答になってしまい、ネガティブな状況に陥りやすくなります。
しかし、SFAは「〇〇をやったら過去上手くいったから続けてみよう」などの「どうしたらよい状態になるか」というポジティブな面にフォーカスできるので、雰囲気が明るくなるなど、プラスの側面が多くあります。
基本的には「例外を探す」というところから解決を考えていきます。
以下は、相談を想定した問答の具体例です。

最近、B社との取引の関係であまり上手くいってなくて…。



そうなんだ、珍しいね、そんな風になるなんて。ちなみに取引が上手くいってたとき(例外の質問)ってどんなときだい?



そうですねぇ、そういえば以前、A社との取引のときは関係が良好で結果が出てました。



なるほど、ではA社との取引のときに上手くいってたことをB社の取引でそれを生かしたりできないかな?



確かに、A社のときにはより密に先方に連絡を入れていた気がします。きっとB社へはそれに比べて連絡が少なく、相手方も自分たちの強みを理解しきれていない気がします。



では連絡を密に取るようにしてみて!担当者と関係性をより強くしていくことが解決になるかもしれないね。もしそれが上手くいかなかったらまた別の手を考えよう。
スケーリング・クエスチョン
スケーリング・クエスチョンとは、今現在の状況を点数化・数値化することで、問題の本質をとらえ、相談者本人の悩みや問題点をクリアにする方法です。
「理想とする自分を10点としたとき、今の自分は何点か」という質問をします。そして、まずはその点数にした理由について質問していきます。
その後、「ではあと1点、点数を上げるとしたらどのようにしたらよいと思うか」という質問をすることで、相談者の中にあるリソースを掘り下げ、どのようなことが出来るか自分自身で気づかせることができます。
以下、具体的なカウンセリング場面を想定した問答の例です。



理想とする自分を10点とすると、今の自分は何点点数をつけるかな?



4点くらいだと思います。



4点ということは、何かがプラスになって4点という点数を付けたんだよね?そのプラスの4点の理由を聞かせて。



そうですねぇ、以前に比べてお客様に満足してもらえることが増えてきたので4点を付けました。



なるほど。では、あと1点だけでよいので、点数をプラスするためにはあなた自身に何ができると思う?



うーん、より満足してもらえるように知識を増やして、社内の販売スキルの大会に出れれるまでになったら1点プラスだと思います。
このようにただ「何が困ってるの?」と聞くよりも、具体的に考えられるため、相談者自身が自分のもっている能力などに気づきやすくなり、達成目標などを自分で決めることができるようになります。
カウンセリングマインドを土台として、これらのアプローチをしてあげることでよりよい相談活動にすることができます。
コーピング・クエスチョン
スケーリング・クエスチョンを行ったときに、例えば「0点です。もう自分は何をやってもダメなんです…」と答えられた際に、あなたならどう対処するでしょうか。
「そうか、つらいんだね、でも頑張ろう」と声をかけても何の解決にもならないのは分かりますよね?
その時に使えるのが「コーピング・クエスチョン」になります。「逆境を跳ねのけている今の状況はなぜあるの?」という質問になります。
具体的に言うと、次のような例です。



もう自分はダメです。0点です。仕事も何もできません。辞めるしかありません。



そうか、そんなにつらい状況の中でも、こうやって仕事場に来ることが出来てる、その原動力はどこにあるんだい?すごいことだと思うよ。



それは…もし自分が休んでしまったら、職場のみんなに迷惑がかかるかと思って…。



自分がそんなにつらい状況なのに、人を思いやれる気持ちがあることがすごいじゃないか。自分だったら投げ出しちゃってるよ。どうして投げ出さずにいられるんだい?



この仲間といるのが楽しいって気持ちがあるからでしょうか。



そうか、本当に仲間思いの優しい人なんだね。どうしたらその仲間ともう一度楽しく仕事ができるだろうか?
このような声かけのイメージです。
部下の育成に使えるカウンセリングマインドまとめ
部下を育成するのは何も「指導」だけにとどまりません。
このように「カウンセリングマインド」を活用して、部下が自分でゴールを見つけ、そこに向かう手助けをすることでも育てることが出来ます。
もちろん、この「カウンセリングマインド」のみで全て解決するとはなりません。時には「指導」を入れることも必要でしょう。
しかし、「指導」のみでは解決できなかった部下の悩みを解決できる方法として活用できるのではないでしょうか。
実はこれ、自分自身、つまりセルフでも使える手法や考え方になります。ぜひ活用してみてください。
以下は、「諸富 祥彦」(もろとみよしひこ)さんという方の本で、日本にカウンセリング(特に教育界)を普及させた方です。カウンセラーとして職場に赴任した想定で、カウンセラーさん向けに書かれた本ですが、職場でも使えるカウンセリングの知識を網羅したよい本ですので、興味ある方は購入してみてください。
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